添え状には2種類ある。一つは生産的情報を含んだもので、査定者が案件を秩序立って見るのに役立ち、これによってリスク評価ができる。もう一方はいわゆる「あてにならない話」である。それは手元にある案件の問題と本当は関係がなく、ぼんやりとしていて、膨らんだ発言となり、読み手を混乱させる(最悪の場合、査定者に疑いを持たれてしまう)。
添え状の価値を明らかにするのに役立つ、ある話を紹介しよう。今から10数年前、私が大手生命保険会社の危険選択部門の査定医として働いていた時の話である。私は、40歳男性弁護士が被保険者の生命保険申込書を見ていた。被保険者の年齢と申込保険金額から、安静時心電図検査と胸部Ⅹ線写真が必要とされた。
心電図検査が正常ではなかった。安静時心拍数が1分間に42回しかな かった。これは洞性徐脈(低心拍数)と呼ばれる状態である。健康な成人の平均安静時心拍数は1分間に60回であり、これよりも22回も少ない。
低心拍数に加えて、心電図の波形もいわゆる第一度房室ブロックを示し ていた。簡単に言い換えると、心筋を流れる電気刺激が少なくなっている状態である。その電気刺激は心筋を収縮させ血液を押し出す働きをする。
その弁護士の被保険者が無条件で加入できる可能性は、心電図検査所見 により既になかったが、胸部X線写真が軽度心肥大を示したことがさらなる大打撃となった。その引き受けリスクは、高度特別条件付と評価された。
査定結果を通知して約1週間後、かなり動揺した電話をある募集人から 受けた。彼は興奮していた。受話器を耳と肩の間に挟み、仕事を続けながら、私は受話器を介してときどき「駄目だ」と叫んでいた。
その募集人は電話を切ろうとしなかったが、私は電話を切ろうと決心 し、「この案件の話は、後60秒で終わりだ」と言った。それに対する募集人の返事でようやく私はこの問題について理解することができた。彼は、「昨年ボス トンマラソンを完走した人間が高度な特別条件付とは信じられない。」と言った。
私も信じられなかった。
この被保険者は長距離走者であり、毎週60km走ることを 趣味にしている。俗に言う「カウチポテト族」の心臓疾患を示唆する心電図検査と胸部X線検査の異常は、心臓専門医が「スポーツ心臓症候群」と呼ぶもので あった。言い換えると、強い運動能力と見事な心肺機能の適応による無害な生理的変化の結果である。
この問題で何が鍵であったのか。答えはこの被保険者がフルマラソンを走 れるほどに高度に訓練をしたスポーツ愛好家であるという事実だ。
これについて考えてみよう。あなたの保険会社の申込書に、マラソンを走 ることについての質問があるだろうか。どのようにして査定者が純粋なスポーツ愛好家であるのか、それともせいぜいベンチプレスをする程度の人であるのかを 区別できるだろうか。
このような場合の問題を避けるのに「添え状」がいかに役立つか、あなた は既にお分かりであろう。