過去メルマガ記事掲載≪メスが入った傷病手当金の不正受給≫
2015.4.9配信 ASSUMEメルマガ
「事業主が、従業員にうつ病を装わせて医師に偽りの訴えを行わせ、約2,890万円もの傷病手当金を全国健康保険協会から不正受給したとして、札幌地裁は、21年11月、詐欺罪で有罪判決を下した」。
これは協会けんぽから社会保障審議会医療保険部会に提出された資料の一部です。
あえて説明するまでもないことですが、傷病手当金は病気やケガで働けないときに、標準報酬日額の3分の2の金額が健康保険から最長1年6ヵ月の期間支給されるものです。
被保険者の収入が途絶えたときに本人や家族の生活を支える大切な制度なのですが、残念ながら不正受給が疑われる事例も多かったようです。
傷病手当金は、休業前の標準報酬日額を基礎として支給額が決定される仕組みです。 休業直前でも標準報酬月額のランクを引き上げることもできるため、たとえば今まで20万円だった人の標準報酬月額を、随時改定で最高等級(47等級)の121万円にすることも可能です。
このように休業前に標準報酬月額をガツンと引き上げ、その後に入院・休業してしまえば毎月約81万円(121万円×2/3)もの傷病手当金が1年6ヵ月にわたって支給されてしまうことになります。
こういった不正受給は、設立事業所の社員が組合員となっている健康保険組合では起こる可能性は低いのですが、事業主の顔が見えづらい協会けんぽにおいては問題視されるほど頻発していたようです。
これまでも、被保険者・医師・事業主への面談や電話等の調査の実施を行って審査体制の強化をはかっていたものの、制度の抜け穴を狙う不正は後を絶たず、ついに今国会に提出される「持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険等の一部を改正する法律案」に支給基準の改正が盛り込まれ、不正受給対策が行われることになりました。
法案では、現在の「標準報酬日額の3分の2」の規定は「傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12ヵ月間の平均の標準報酬日額の3分の2」とされており、直近の金額ではなく、直前1年間の平均額を基準額とする方法に変更されることになります。
また、受給直前に被保険者資格を取得し高額の標準報酬を設定することを防止するために、被保険者期間が1年に満たない場合には、「その者の被 保険者期間の標準報酬日額の平均」か、「その保険者の全被保険者の平均標準報酬日額」のいずれか低い方が基準額となることも加わる予定です。
傷病手当金が見直されると同時に、出産手当金についても「直近1年間の標準報酬月額の平均」で支給されるように変わる予定です。
出産手当金の不正受給は、あまり想像できませんが、平成26年4月から産休期間中の健康保険・厚生年金については、事業主分も含め保険料の支払いが免除されています。不正受給者にとっては、一度、標準報酬月額を引き上げさえすれば、その後の負担ゼロで毎月約81万円の出産手当金を不正受給できてしまいます。
こういったこともあり、同時にメスが入れられることになったようです。
不正受給は言語道断のことですが、傷病手当金の支給基準が厳しくなったことには変わりありません。
募集人の皆さまには意外なところから医療保障の販売に追い風が吹いてくるのかもしれませんね。